なぜ今いやが上にもが話題?報道での使用急増と現代的文脈を徹底追跡
スポーツの大型大会プレビューやカルチャー批評、食レポコラムなどで頻出する「いやが上にも」。現代のニュースメディアでこの言葉が多用される理由と、読者の感情を揺さぶる言葉のトレンドを時系列と実際の報道事例をもとに追跡すると、書き手側の明確な「演出意図」が浮かび上がってきます。
昭和のニュース映画から令和の二刀流報道まで続く「高揚感の装置」
報道の歴史を遡ると、この表現は古くから大衆の熱狂や士気を伝える場面で使われてきました。NHKアーカイブスに残されている1940年代の記録映像『日本ニュース 第29号』や『第131号』、当時の祝賀行事を伝えるニュース映画のナレーション原稿を検証すると、国民的な行事や戦時下の式典において「雰囲気が最高潮に達している様子」を形容する定型句として機能していた記録が確認できます。
時代が下り、現代のスポーツジャーナリズムやエンターテインメント報道において、この言葉は「単なる事実の伝達」から「読者の期待感を煽るフック」へと役割を進化させました。
たとえば、プロ野球の球団公式メディアである『月刊タイガース』の選手クローズアップ記事や、2026年6月に日テレNEWS NNNが配信した大谷翔平選手の先発予告ニュース(『投打ともに絶好調 最高の状態でむかえる二刀流 いやが上にも高まる期待』)を例にとってみましょう。ここで記者が「さらに期待が高まる」「ますます期待が高まる」と書かずに、あえて「いやが上にも高まる」という表現を選ぶのには、メディア特有の心理的アプローチが存在します。
- 前提となる「熱量の土台」を暗示できる:「ますます」や「一段と」だけでは平面的な変化に留まりますが、「いやが上にも」を使うことで、「すでにファンや現場の熱気は十分に高い状態にあり、そこに今回の好材料(絶好調の打撃成績など)が乗っかることで、限界突破するように期待が膨れ上がっている」という立体的なストーリーを一瞬で構築できます。
- カルチャー批評や食レポにおける「五感の刺激」:映画のクライマックス前の演出を評するコラムや、名店の料理が運ばれてくる直前の食レポでは、「炭火の香ばしい匂いが漂い、いやが上にも食欲がそそられる」といった使い方が定番化しています。これは、書き手が「自分の理性では抑えきれないほど、対象の魅力によって感情や本能が引き上げられていく」という没入感を読者と共有するためのレトリックです。
つまり、情報過多の現代ウェブメディアにおいて、読者のスクロールする指を止め、記事のなかの臨場感に引き込むための「感情増幅ワード」として、これほど使い勝手の良い慣用句は他にないのです。