ホテル奥道後なぜDocomomo選定?根津耕一郎のモダン建築と壱湯の守の正体
近代建築の記録と保存を目的とする国際組織「DOCOMOMO(ドコモモ)」の日本支部(DOCOMOMO Japan)は2026年6月、「日本におけるモダン・ムーブメントの建築」として新たに12件を選定しました。そのリストのなかに、1964年(昭和39年)に竣工したホテル奥道後(現在の奥道後 壱湯の守)が名を連ねています。
設計を手がけたのは、戦後の日本建築界で独自の存在感を放った建築家・根津耕一郎氏です。なぜ地方の巨大温泉ホテルが、建築史に残る文化遺産級のモダニズム建築として評価されたのでしょうか。最大の理由は、石手川の険しい渓谷地形を破壊するのではなく、地形のうねりに沿って建築を水平方向へ展開させた独創的なランドスケープ設計にあります。
根津耕一郎氏の設計思想と「全長約400メートル」の渓谷構造美
高度経済成長期の観光開発では、自然を切り開いて高層の箱型ビルを建てる手法が主流でした。しかし根津耕一郎氏は、奥道後の急峻な谷間という立地に対し、建物を高層化するのではなく、川の流れと並行するように全長約400メートルにも及ぶ長大な低層・中層ヴォリュームを連ねるアプローチを選択しました。
当時の建築雑誌や設計記録を紐解くと、コンクリートの力強い水平ライン(庇やバルコニーの連続)を強調しながら、日本の伝統的な数寄屋造りや城郭建築の勾配屋根のモチーフをモダンに昇華させようとした意図が浮かび上がります。館内の長い廊下を歩くと、窓外の渓谷美がシークエンス(連続的な場面展開)として切り替わるように計算されており、「歩くこと自体が自然との対話になる」という空間体験こそが、60年以上の時を経てDOCOMOMOに選定された核心的な価値です。